舞台「吐露」(2023)の魅力:女優 二葉エマ の進化を目撃して

 もちろんここはエマ民村なわけで、基本的に二葉エマを推しているわけだから、どうせ褒める方向で語るんだろ?とツッコまれそうです。しかし管理人、本来の趣味分野に関わるところでいけば、「演技」という部分には一家言持っている人間。そこで今回はあえて管理人が別のサイトでやっているスタイルで語ってみます。いつもと文体が違うのでビックリしないでください。


 まいった。心が震えた。やっぱりこの人は本当にスゴいと思った。前回の舞台でも、その才能ぶりは充分伝わってきたのだが、短期間でここまで進化するのかと思ってしまった。

 2日目に鑑賞した時、まず最初にステージに登場されたその姿が「シロツメクサ」とあまりに違いすぎてビックリした。立っている姿がちゃんと舞台女優だった。少なくとも「シロツメクサ」の時に感じられた、その時には許された初舞台ゆえの未熟さはなくなっていたし、他の俳優さんが醸し出す空気の中にいても、そこに表現の大きな違和感は感じなかった。
 さらに、どの公演でも安定した演技をキープしていた。私はAチームの3公演をみることができたが、前回は舞台経験が少ない分、明らかに緊張感に呑まれてセリフに縛られているような感じがあったり、良くも悪くもその場の舞台の空気に引っぱられてしまうことがあったりした。高水準で同じステージを繰り返し届けることができる=それがプロ、という考え方も大事だと思うし、演出家の演出をきちんと咀嚼する力も必要だと思うので、そのあたりは大きな成長だと思う。

 ただ。それをわずか4ヶ月でやってしまうところがすごいと思う。演技などの表現テクニックは後でどうにでも身につけられると思うし、基本的にその人がもっている凄さは天賦の才能だと私は考える。しかし、例えそうだとしても、テクニックを身につけるためにはそれ相応の訓練が必要。この変化は相当ご苦労されたのではないかなあ、と。そうでなければわずかここまでの変身はないと思う。

 今回演じるユリという役は、ややがらっぱちな感じで口も悪い。その上、表情での表出がほとんどなく、大きなアクションがあるわけでもない(ここのガマンが後半に効いてくるわけだが)。つまり楽な役では無い。しかも彼女の存在は、この4人の中でも、特に黒谷の悪意を一身に集めてしまった悲しい人物だとも言える。その心に秘めたものを少しでも滲ませることができなければ物語自体が成立しない。
 キャスティングを決めた方は勇気があるなと思ったし、ある意味で意地悪だとも思った。何しろセクシー女優だけしか出演しない舞台に1度出ただけのキャリアしかなく、特段俳優としての基礎訓練などもほとんどない人物。その上でセクシー女優という分野で活動している人物に、あんな背景を背負っている役をあてた。何重もの意味で、その異物感たるや強烈だったと思う。かなりご自身でもマズイと思ったのではないだろうか。

 しかし二葉エマはその異物感を感じなくさせるレベルまで表現力を上げた。

 圧巻だったのは最終日だった。この日も間違いなくユリだった。表情や動作から二葉エマという存在が消えて、ユリという女の子にしか見えなくなってくる。でもそれだけじゃなかった。黒谷への思いを吐露してから、ケンと抱き合うところまでの流れ。私はこの日、最前列の一番舞台下手の席でみていたが、ケンを止めて見つめ合うところの表情、今まで一度も見たことがない表情だった。それだけで胸に迫るものがあった。テンパの吐露を聞いているところ。エマさんの目から涙が溢れている。でも泣いたから熱演!なのではない。堰を切ったように溢れ出てくる感情の中に、なぜユリがこんな人物になったのか、ユリの心の中にはどんな景色があるのか、そんなものまでが滲み出ていたことに、私は泣きそうになった。ユリはもともとピュアな存在だったはず、そこに女優二葉エマの姿も重なる。何よりただ1人の女性、そしてただ1人のセクシー女優、その異物感を内包しながら自分の色にしただけでなく、他の3人の演者さんと同様に「吐露」というステージを成り立たせる存在にまでなったことに心を動かされた。だからあの4人の物語が私たちの心を動かした。そして二葉エマの進化に心底驚き、感動してしまった。

 毎回しっかりと役になりきっているが、どちらかというと技巧でこなすタイプではない。もちろんそのセリフ回しのよさや、ちょっとした眼差しや仕草の自然さは天性のものだが、彼女は役にそのままなりきってしまうタイプである。しかも演じているうちに(多分)本人も気づかないうちにスイッチが入ってしまう感じなのが恐ろしいところである。舞台「シロツメクサ」の魅力:二葉エマが「消えた」瞬間 ~女優・二葉エマ論~ より

 今回も演出で関わったカジさんは、かつて憑依型という見方を否定されたが、二葉エマはやっぱり一種の天才なんだと思う。その気持ちの作り方と表出のさせ方は天賦の才能としか言いようがない。本当に才能豊かだ。しかも、他の俳優さんと自分を生かしながら作品の色を作り上げたという経験を今回は得ることができた。このレベルにまで到達してしまったセクシー女優さんがどれだけいたのだろう。そしてそれを目撃できた私はとても幸運だと思う。

 ただ。逆に毎回毎回これをやれるのか?というのが、次の、何とも贅沢な課題になったともいえる。これからも舞台をめざし続けられるのであれば、チャンスを掴むべく貪欲にチャレンジしていくしかないし、ただただ地道な努力を続けるしかない。そして自分の才能を疑うことなく、前に歩んでいただければと思う。