舞台「シロツメクサ」の魅力:二葉エマが「消えた」瞬間 ~女優・二葉エマ論~

 もちろんここはエマ民村なわけですから、基本的に二葉エマを推しているわけだから、どうせ褒める方向で語るんだろ?とツッコまれそうです。しかし管理人、本来の趣味分野に関わるところでいけば、「演技」という部分には一家言持っている人間。そこで今回はあえて管理人が別のサイトでやっているスタイルで語ってみます。いつもと文体が違うのでビックリしないでください。


 すごいものを見てしまった。いや、正確に言えば、すごい才能を目撃してしまったと言うべきか。

 すでに二葉エマは演技派という評価ができつつあるが、この演技派という表現は違和感がある。毎回しっかりと役になりきっているが、どちらかというと技巧でこなすタイプではない。もちろんそのセリフ回しのよさや、ちょっとした眼差しや仕草の自然さは天性のものだが、彼女は役にそのままなりきってしまうタイプである。しかも演じているうちに(多分)本人も気づかないうちにスイッチが入ってしまう感じなのが恐ろしいところである。

 なぜ恐ろしいか。

 演技というのはマジックに似ているところがある。役者は役を演じている。この事実の中には限りなく超えるのが難しい壁を含んでいる。トム・クルーズはトム・クルーズだし、高倉健は高倉健だからである(ここで映画スターをあげた意図を理解していただけると嬉しい)。しかし良質な演技はその壁を観客に意識させない。映画や舞台をみているうちに、その俳優が演じているのではなく、その役が観客の眼前にいるように錯覚させてしまうのだ。だが演技が巧いだけでは観客を錯覚させることはできない。そのために俳優が追い求めてやまない「何か」が必要で、その「何か」には無数の答えがあるが、その答えを的確に見つけることは難しい。でも二葉エマはその「何か」を本能的に掴んでしまっている気がする。そしていつの間にか役柄そのものになって呼吸をしてしまっているのである。そこが恐ろしいのだ。

 ここまでもその才能の片鱗をさまざまな作品でみせてきた。中でも映画『下着博覧会』のヒトミ、Vシネマ「真・透明変態人間2 魔性の香水に翻弄されるオンナたち」のひまり、AV作品「私がAV女優になった理由(ワケ) 密かに好きだった親友の彼氏に好きなAV女優に似てると口説かれAVのようなアブノーマルプレイをヤリまくった3日間 二葉エマ」。この3作品の二葉エマはすごい。同一人物が演じているとは思えないほど、それぞれの役が際立っている。見ていただけたら、きっと二葉エマはセクシー女優という範疇では到底収まらない才能だとわかってもらえるだろう。

 そして、今回の「シロツメクサ」は彼女が豊かな才能の持ち主であることをまたしても証明してしまった。

 他の女優さんとの掛け合いが始まってくると、俄然エンジンがかかってくる。そして後半の展開。二葉エマという女優の演技に、私たち観客は錯覚させられてしまった。その表情や動作から二葉エマという存在が消えて、山中みさきという女の子にしか見えなくなってくる。目の前にいるのは「山中みさき」、あれ?「二葉エマ」は???

 熱演という言葉があるが、これは褒め言葉ではない時がある。特に本作での二葉エマの表現は、狂気とかを目を剥き出しにして、といった単純なものではなく、むしろ自身をからっぽにして役の器として肉体だけを使い、中身を役柄そのままにすることできる方なのだと思った。いや、ウソだと思うならば、観劇した方に聞いてほしい。あの眼をみたらわかる。みさきの目だったから。

 初日も衝撃的だったが、この4日間で、個人的に一番戦慄とさせられたのは3日目の夜の部だった。劇中、ずっと「二葉エマ」はどこにもいなかったと思う。そのステージには、存在の小ささと不安定さをずっと漂わせながら、山中みさきという女の子がふわふわと立っていた。そもそもその子の行動原理はまったく非論理的なのだが、こういう子いるかもなと思えたのはなぜだったのだろう。やがてマリに感謝をしていく件から謎が明かされる場面へ。客席が思わず息をのむ。そこからあの鮮やかな豹変ぶりにつながる悲しいモノローグ。舞台にいたのは心が砕け散ってしまった女の子、自分の拠り所がなくなってしまった女の子。この時の二葉エマの表情を私は一生忘れないと思う。

 もちろん課題がないわけではない。初日はかなり緊張の色が見えたし、また前半の独白的な妄想のあたりはセリフにしばられている感じがした。また4日間通しての安定感では、加藤さんや中山さんと比較してしまうと、やはり物足りない部分はあり、時には劇中内でも、あらら?という感じの時があった(それは前述した3日目の夜でもあった)。そのあたりは今回の経験をいかして次回以降の舞台では変化していくと思う。

 もう今から二葉エマの次の舞台が待ち遠しくてたまらない。きっとその時はまた私たちを驚かせてくれるに違いないから。そして間違いなく、女優・二葉エマのスゴさも実感していただけるはずである。そういう期待をさせてくれる女優さん、これからも注目していきたい。