舞台「シロツメクサ」の魅力:演者さんのこと

2023年7月19日

 舞台「シロツメクサ」の魅力の1つは、何と言っても素晴らしい5人の出演者の方々だと言えます。そこで公演中に感じた演者さんのことを語ってみたいと思います。なおネタバレ全開です。また生意気な内容だと感じたら申し訳ありません。(五十音順)

<加藤あやのさん>

 加藤あやのさんが演じられるかずえは普通である日常に飽き飽きしている女性。そして物語にカオスを生じさせる存在だ。顔立ちが整っている女性が、カーラーをつけたままウロウロしているという姿がすでに視覚的なギャグなので、落ち着きのない演じ方をされるとくどくなって舞台がしらけてしまう。しかし加藤さんは佇まいがちゃんと演劇しているので、舞台の進行を邪魔することがない。それは歩き方だったりセリフの言い方だったりすると思うのだが、加藤さんが登場すると舞台が落ち着くのだ。前半の架乃さんと二葉さんのやりとりは座席に座ったままだし、物語の展開上仕方がないとはいえ、説明的な掛け合いも多いので、やはり流れがよどむ。そこへ加藤さんがあの格好で出てくると、それだけで一気に物語は動き出す。なんでそうなってるの?という物語としての謎解きに加えて、なんでそんなことしてるの?という観客の疑問にもうまく答えながら、話をスムーズに進める。経験がものをいっているなと思うのは客席との呼吸の合わせ方。毎回加藤さんの出番になると客席のテンションがうまくギアチェンジしていたと思う。とてもエネルギッシュで魅力的な演技だった。こういう方がいらっしゃるのは演出側としては本当に心強いと思うし、個人的に今回その存在と出会えて一番嬉しかった女優さんだ。

<架乃ゆらさん>

 実はいまだに架乃さんの演技を自分が観客としてうまく消化し切れていない気がしている。特に架乃さんの目の演技は観客の解釈を拒絶するような強靱さを秘めていて、そこをどう解釈するかはあなた次第でしょ、と突き放された感覚がある。いずれにせよ、ひとつだけハッキリ言えるのは、この役柄が本公演での最大の難役ということだ。
 オープニングで自分の価値観やどんな人間なのかを5人の登場人物たちが語るが、1人だけ、本編では自分の価値観を主張しない人物がいる。マリである。マリだけは自分が物語を主導しない。ひたすら相手の話に反応するだけなのだ。だからマリがどんな人物でどんな気持ちなのかが視覚的にわかりにくい。マリがわかりやすい反応をするのはパーマさんを初めて目撃した時と、みさきに「だれ?」と尋ねる時だけなのだ。
 さらにマリはずっとウソを突き続けている人物だということもある。しかもバレてはいけない相手は目の前にいる友人なのだから、それをどの程度まで匂わすのか、そのさじ加減をどう演じるかは難しかったと思う。架乃さんは、そこをまったく匂わせない、平然としたウソつきとして演じられた気がする。ちょっとした隙すらをほとんど作らず、どうせバレない、バレても大したことが無いという感覚。そうでないと物語のサプライズが成立しないし、世界観も揺らいでしまうからだろう。ただ別項でも書いたが、2人の関係性がどうだったかということを考えた時に、少なくとも悪女ではないし、実はマリもかなり辛い人物であることも事実なので、そこを観客にどう伝えるのかというのも難題だったのではないか。なぜみさきと友だちでいつづけられたのか、なぜ彼女には出会いがないのか、そして、なぜ何度も友人の友だちを好きになってしまうのか(しかもウソをつき続けて)。この背景をどう解釈するのかによって、本舞台の受け取り方はかなり変わってくるのではないかと思う。だから架乃さんがそのあたりをどのように考えて演じていらっしゃったのか、いつかそのあたりのお話をきかせていただきたいなと思う。

<中山ふみかさん>

 5人を結果的に結びつける役割を果たす人物がエミ。幸せになるために最高の男子を探していると公言してはばからない刹那的な享楽で日々を過ごしている人物だ。中山ふみかさんは展開にカオスを生じさせながら実は物語の進行としては潤滑剤となっているこのエミという人物を、よい意味でさらっと演じていて好感がもてた。特に2日目の演技は本当に素晴らしかった。ご自身も「土下座がキマッたので嬉しい」と2日目のカーテンコールでおっしゃってたが、多分自分の今日の出来映えにも満足されていたのではないだろうか。酔っ払ってるけどチャーミングで微笑ましさを感じる空気も醸し出していて、間違いなく物語によい流れを作り出す原動力となっていた。
 この物語には登場人物たちを引っぱる軸、つまり観客がこの先どうなるかが気になる要素が2つある。ひとつはみさきの恋の行方、もうひとつはエミが西麻布の飲み会に出席できるか、である(パーマさんの美容師探しも一応そうだが・・・(汗))。ただ作劇上、エミの行動は現実感がやや希薄なので、どうしても恋の話に引っぱられてしまう。そうすると片方の要素がもう片方の要素の足を引っぱってしまう流れになることが往々にしてあり、初日の公演についても私はそういう感じ方をした。ところが、今日は酔っ払いがもつ妙な迫力すら感じさせる中山さんの演技で、展開の起点となる「強い女」をめぐる議論からグイグイと物語が転がりだし、占いの場面まで一気呵成にたたみかけることができた。これで本庄さんが演じた占い師の可笑しさに加えて、加藤さん演じるかずえの立ち位置が絶妙なスパイスになり、脚本が狙った面白さをきちっと芝居で成立させたといえる。発声も明瞭だし、舞台という空間を目一杯意識できる。アドリブも毎回冴えていた。素晴らしい女優さんだと思う。

<二葉エマさん>

<本庄鈴さん>

 本舞台の一番の笑いどころは、やはりタロットの場面だろう。本庄鈴さん演じるレイコは占い師で、その美貌とスタイルのよさが占い師にぴったりなミステリアスなムードを醸し出している。ただ、占いによってその日の服装や持ち物を意識して変えるという話からも、とても受動的な生き方をしている人物ともいえて、そのあたりの矛盾が生み出す可笑しさも本庄さんはきちんと表現されている。今回の舞台はお笑いのフィールドで活躍されている方が演出と台本で関わってらっしゃるので、この手の展開をどうするかはお手のもの。劇中、一番の笑いどころであるタロットシーンで慌てふためく様子は本当に楽しかった。しかも3日目夜の演技はテンポもアドリブも素晴らしく、3回目となる私も今回が一番笑わせてもらった。先の展開がわかっていても観客を楽しませることができる、これが本庄さんの表現力の素晴らしさを証明している。『お熱いのがお好き』のマリリン・モンローのように美貌と豊かな表現力を併せ持つ女優さんはコメディエンヌとして最高に楽しい。何より美女が真顔でおもしろいことをするのだから鬼に金棒なのだ(綾瀬はるかさんについて、これに似たような発言を三谷幸喜もしていたことがあると思う)。個人的にバックグラウンドのストーリーが気になった人物だったので、ひょっとするとスピンオフができたら面白い役かも知れない。